071773 ランダム
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★☆自分の木の下☆★

★☆自分の木の下☆★

19.宣戦布告

  

                                                                      ≪ララ≫


 俺の目線の先で、あいつは迷子になっていた。暗闇の中、栗色の髪の毛を振り回し、何か見えないかと手探りで動いている。完全な闇で、光などどこにも無いはずなのに、総司の目には今にも泣きそうな茜がはっきりと見えた。
 せっかく整っている顔を歪ませて、涙を堪えているものだから、総司は仕方がなく側に行く。俺に気付いた茜は、パッと顔を輝かせ、名前を呼んできた。悪態の一つでも言ってやろうかと思っていたが、その安心しきった顔を見て止めた。
―――ほら、さっさと行くぞ。
 暗闇の中、茜の手を掴んで歩き出す。最初は暗闇が怖いのか戸惑っていた茜も、次第に余裕をもって歩き出した。それとも、余裕なふりをしているだけだろうか。繋いだ手を決して離さないようにぎゅっと握り締めてくる。総司には茜が見え、進む方向も解るが、完全な暗闇にいる茜にとってその動揺は当たり前なのかもしれない。
 次第に闇が濃くなった。最初は見えていた茜の顔が霞んで見えない。焦る気持ちが伝わったのか、茜は両手で総司の手を握ってきた。握った手が、汗で滑り離れる。はっとして手元を見ると、ぼんやりと霞む茜の手が、慌てて総司を探そうとしていた。次に離したらもう見えないかもしれないと動揺し、離すものかと心に誓いながらもう一度手を繋ぐ。
 何時間歩いたのだろう。実際には数分かもしれないが、ひどく長く感じた。やっと出口に近づいたのか、周囲が明るくなってきた。自然に歩調が早くなり、急げとばかりに茜の腕を引いた。何も無い場所から、次第に緑が増えていく。足は茶色い土を踏み頭上は青い空が広がっている。暖かい風が吹き、花の香りがしたら、遠くから小鳥の囀りが聞こえてきた。杉の木の下で、ここならもう大丈夫だろうと安心して立ち止まる。太陽の暖かさを感じた。
―――やっと、抜け出せた。
 嬉しさを感じながらそう呟き、繋いだ手の先を振り返った。目が合った途端に、柔らかな瞳が優しく自分に微笑む。それは茜じゃなかった。
ひどく懐かしい笑顔の前で、総司は驚きに目を見張った。心の奥底から切ない感情が溢れ出してくる。固まる総司の前で、彼女は握っていた手を離そうとするものだから、咄嗟に強く握った。茜とは違う瞳が総司をとらえ、その動作一つ一つに惹かれて、求めて、そして泣きそうになる。
 そんな総司を見て、彼女はふわりと笑い、口を開いた。
―――総司?



「――――――――――っ!!!」
 総司は布団の上で、脈打つ心臓を感じながら目覚めた。今だ収まらない感情の渦に、苦しそうに目を瞑る。
―――可奈子………。
 唇の震えを押さえつけて、懐かしい名を心の中で呼ぶ。泣きたいような、そんな自分に笑いたいような気持ちになる。
 彼女の夢は、最近見ていなかったのに。古傷が痛むように心が痛かった。彼女の顔を久しぶりに見た気がして、それでより悲しくなった。
 彼女の笑顔を思い出そうとして、夢の記憶を探る。しかし思い出せず、変わって出てきたのは茜の顔だった。全然似ていないだろうと、むかつきながらも無邪気に笑う笑顔に救われるような気がした。あまりにも無邪気な顔、単純に騙され本気で怒る顔、可愛いとは言いがたい口を尖らした顔、嬉しそうに瞳を輝かせる顔。茜の百面相のようなコロコロ変わる表情が浮かんでは消えていく。総司の口元は、いつの間にか微笑んでいた。
 部屋は暗く、浩也のだろう寝息が聞こえる。蛍光塗料が塗られたデジタル時計が、深夜四時半を指していた。確か三時ごろまで酒を飲み、その後寝たはずだ。まだ一時間程しか寝ていないことになる。
もう一度寝付ける気配は無かった。総司は溜め息を付き、目を閉じた。そして、気分を変えようと寝返りをうつ。
「むぎゅッ」
「――――むぎゅ………?」
 生暖かい、何か大きいものを背中で踏んだ。慌てて退いて、暗闇の中、その物体を凝らしめて見ると人型だった。うつ伏せで、かすかに動いている。
「だ、誰だ………?」
 肩の部分を持って、顔を見ようとひっくり返す。
「んにゃー」
 とても可愛くない声だった。眉を潜めると、かすかに金髪が見える。
「晴貴……」
「あかねちゃぁアアアアア――ン!!!!!」
 こいつかよ、と肩を落とした所、いきなり晴貴は奇声を上げて抱きついてきた。腕も足も体に巻きつけてくる。押しのけようとするが、グリグリと胸に金髪を擦りつけてきた。
「な、やめ――――!」
 鳥肌が立った。伊集院とか孔雀院とか言う大層な名前の奴を思い出す。寒気がした。
 晴貴の尖らした唇が、チュッチュッと総司の服から覗く鎖骨に吸い付いてくる。
総司の中で、何かが切れた。
「ハ―――ル―――キ―――」
 低音を轟かせ、へばり付く春貴を力任せに剥がすと、総司は力を入れて蹴った。蹴って蹴って蹴りまくった。
「う゛ぇげぇほッ!」
 何とも言いがたい声を断片的に吐き出しながら、晴貴はベッドから落ちて行った。
 総司は、痛みにうめく晴貴の声を聞きながら、ベッドスタンドに付いている明かりを付けた。付近がぼんやりと明るくなる。睨むように、ベッド下を覗くと、晴貴が目尻に涙を溜めながら丸まっていた。ぴくぴくと二回足を痙攣させた後、しばらく沈黙して、突然バネ仕掛けの玩具のように飛び上がる。
 ベッド上から頬杖を付いて見つめる総司の前で、キョロキョロと金髪を振り辺りを見回した。まだ体が痛いのか、頬が引きつっている。
「あかん、ここどこや?! とうとう寝ながら迷子か?!」
「ほう? 無意識に俺のベッドで寝ていたと、自分に罪はないとそう主張したいわけだな」
 総司は、氷点下笑顔で晴貴に話し掛けた。何か薄ら寒い空気を感じて汗をかく晴貴に、さらに言い詰める。
「寝ながらなら、人を羽交い絞めにしてもいいってことか」
「トイレ行ったら部屋間違えてもーた。酔ってたしな~ハハ」
「へぇ、それで?」
 笑顔の総司の前で、同じく笑顔の晴貴は凍りついた。金髪を掻いていた手も止まっている。唯一動いているのは、引きつる口元だけだ。
 総司は溜め息を付き、晴貴を見る。見られた晴貴は、咄嗟に正坐した。
「お前、何したか覚えているか?」
「へぇ……えーと、そうだそうだ! 茜ちゃんの夢見とって~、茜ちゃんがまたこりゃ可愛くて……」
 思い出しながら照れたように頬を染める晴貴に、苛つきが募る。
「それで人をどこかのアホ毛と間違えて、襲ってきたと言うことか」
「エヘ☆」
 晴貴はパチパチと瞬きして、緑の目をくりくりさせてウインクした。気持ち悪い。
「エヘ、じゃない! ―――ああ、もう疲れた、頭痛がする………」
「総司お酒かなり飲んでたもんな~」
 訳知り顔で頷く晴貴。
「うるさい。お前、隣の女子部屋に入ってしまったらヤバかったぞ。特に姫に手を出したら俺が殺してたな」
「さっきも十分生死の境を彷徨ったけど。つーか、鈴ちゃんはいいの?」
「その場合は浩也が真剣振り回すだろ」
「………確かに。じゃぁ茜ちゃんは? もう俺張り切っちゃうかも。ウハウハ」
「―――別に、あいつなら大丈夫だろ………ってお前、何に張り切るんだ、こら。油断も隙も無いやつだな」
 こいつは、本気で言っているのだろうか。よく思うことだが、春貴はいつもへらへら笑っていて、実は何を考えているのか解らない。ただ単純にバカなだけかも知れないが。
 大体、茜を好きとかいつも言っているが、それさえも妖しいものがある。茜本人もいつも晴貴のアタックを、冗談として受け止めている。
「ああ、可愛そうに」
 晴貴にちょっかい出されまくる茜を想像して、ついそう口走ってしまった。アホ同士仲良く、とはこの金髪の獣相手には無理な話なのかも知れない。
「……心配?」
 自分が真の獣だということを忘れ、総司はそんなことを思っていたものだから、晴貴に言葉に対応するのが少し遅れた。
「は?」
「だから、茜ちゃんのこと心配?」
 驚いて、晴貴を見る。ベッドスタンドの明かりで深緑色になった瞳が、総司の黒い瞳を覗いていた。ふざけるでもなく、ありえないほど真剣な表情。ああ、いつもこんな顔していたら、かっこよく見えるのに。
「……別に。関係ないだろう」
 言う喉元に突っかかりを感じながら、それでも冷静に総司は言った。
「へぇ―――」
 晴貴は何かを含んだ笑顔。だが、笑顔の裏の厳しい目付きは変わらない。普段の晴貴との違いに、総司は混乱する。しかも何か嫌な予感がする。
「自分だって、夢で茜ちゃんの名前を呟いていたくせにね」
「なっ……!」
「切なげに、アカネ……だよ。やーだねー色男は」
 いつそんなことを。確かに夢に出てきたけど、名前は呼んだかも知れないけど、切なげになど言った覚えは無い。大体、晴貴の口調は今確実にいつもと違う。標準語になっている。普段からおかしな口調だとは思っていたが、その場によって換えているのか。
「あのさぁ。俺、本気で好きなんだよねぇ」
「な、にが………」
 必要以上に動揺する自分に焦る。上手く舌も働かない。
 深緑色の瞳は、思った以上に力がこもっていて、冗談としても切り出せない。
「だから、嘘っぽく見えるかもだけど、結構本気で茜ちゃんのこと好きだってこと」
「俺には……関係ないだろ」
 晴貴が茜を本気で好きだろうが、自分には関係など無い。
 何故、今ここで俺に言うのか。
「宣戦布告だよ」
 意味が解らない。
「戦う相手を間違えてる。俺は茜になど興味ない」
 言った言葉を頭の中に植え付ける.
「興味無いにしては、最近の行動おかしいんじゃない? 俺さ、そろそろ我慢の限界っていうのかな、黙って見ているのももう終わり」
「それは………」
 確かに最近、茜と近くなっているのは自分でも解る。学校では、付き合っていると嘘でも公表したほどだ。
 深緑色の瞳を持った目の前の知らない人物は、やはり見た事が無い何かを持って、ゆっくりと口を開いた。
「俺は本気でいくから」
 ぼんやりとする総司の前で、繰り返す。
「本気でいくから」
 深緑色が、鋭く光った気がして、背筋が寒くなった。
 晴貴は立ち上がって、部屋から出て行った。
 本気になるなら本気になればいい。俺には関係が無い。そう言い聞かせるが、心の何かがひどく焦っている。総司はじっと座ったまま、電気を消すのも忘れていた。
 茜じゃない、俺の好きな人はあの人だ。
「何て顔をしているんですか」
 ふいに声をかけられる。隣に並んだベッドで、浩也が背を向けていた。いたことに今更ながら気付く。
「どんな、顔をしていた……?」
 動かない浩也の背中に問い掛けた。
 今の自分の感情が解らない。今自分はどんな顔をしている?
「………ただの寝言ですよ」
 答えは無かった。







「あ~かねっちゃん、もう昼でっすよ~♪」
 バタンと扉を開けて、閉める事無く晴貴は茜一人が寝る女子部屋に堂々入っていった。昼前の十一時。既に茜意外は起きている。
 軽い足取りで、グーグピピピと寝る茜のベッドに近づく。しゃがみ込んで、顔を覗けば、アホ毛を立たせて、ぐっすり眠りこけていた。
「茜ちゃん~」
 頬をつつけば、少し反応した。
「茜ちゃーん。早く起きなきゃ、春貴君が寝込みを襲っちゃうで――!」
「う――……」
 ほとんど反応無し。口を尖らせた晴貴は、ギシリと音を立て、ベッドの上に足をかけた。そっと眠る茜の頬に手を添える。
「茜ちゃん」
 顔を近づける。吐息がかかるわずか数ミリまで近づき、ふいに晴貴は止まった。気持ち良さそうに眠る茜の栗色の髪を撫でて、顔を離して立ち上がる。
「何で来ないんや、総司………」
 目線は、開かれた扉。リビングから椿と優雅の話し声が聞こえてくる。
「わざわざ聞こえるようにしたんやけどな――………」
 眠る茜を起こさず、晴貴はそのまま部屋から出た。階段を下りると、お昼ご飯を作ろうとする椿を優雅が必死に止めていた。ソファーには浩也と鈴菜が座って、団欒していた。
「あ、ハルちゃん! 茜ちゃん起きた~?」
 熱く熱されて煙を出しているフライパンを握り締めながら、椿が聞いてきた。後ろで優雅が、半泣きで何か言おうとしている。
「何か気持ち良う寝てるから、起こされへんかったわぁ~」
「ハルちゃんは甘いねー」
「惚れた弱みってやつ」
「また~」
 もう一つの手でビンを掴みながら、椿はニコニコ笑顔。その後ろで優雅が、やはり半泣きでビンを取り上げようとしている。
「んで、総司しらん? 俺が上行くまではこの辺にいたやろ」
「総ちゃん? 確かさっき出て行ったよー。散歩かな」
 優雅の取り上げようとする手を交わして、椿はビンの中身をフライパンに垂らした。一瞬にしてフライパンの中が、オレンジの炎で一杯になる。それを一瞬呆けて見ていた椿は、慌ててフライパンをコンロの上に置くと、首を傾げた。
「あれぇ?」
「椿ちゃん、大丈夫?!」
 優雅が椿の手を取り、火傷が無いか確かめた。取っ手が長いフライパンだったので大丈夫そうだ。無事を確認したら、次は火柱の上がっているフライパンを見た。
「火、火消さなきゃ! あーもう、熱しすぎだよ! しかもそれ入れたの油じゃなくてお酒だから!」
 慌てる優雅に、冷静な椿の方が行動した。こう言うことは慣れているのだろう。
「って、椿ちゃん! 水入れるんじゃなくて火を止めて………ってそれ水じゃなくて油――!!!? うわぁぁぁあああ!!!!」
 台所は、かなり危険なぼや騒ぎになりつつあった。さすがに浩也と鈴菜も気付いたのか、こっちへ来る。
 浩也は優雅を手伝って、油によって勢いの増した火を消す。鈴菜は元栓を閉めていた。
 晴貴と何もするな命令が出された椿は、邪魔をしないように壁際によっていた。
晴貴は、うな垂れる椿を慰めの言葉をかけて、笑った。下を向き自分の手元を見つめると、握るしめた拳が白くなっている。
「逃げたな………」
 騒がしい中、その晴貴の呟きは、誰の耳にも届かなかった。



 俺には関係ない。
 総司は薄手の白シャツにジーンズというラフな格好で、海岸沿いの大きい岩の上に登って座っていた。風が強く、黒髪が顔にかかる。それをいくら元の位置に戻しても、直ぐに風に運ばれ顔にかかった。何回ものその作業の繰り返しに嫌になり、前髪をかき上げる。
「オレは――………」
 手を握り締め、唇を噛み締める。
 晴貴が去った後、総司は結局寝ることが出来なかった。関係ない、どうでもいい、と心に何度も植え付けて、必死に込み上げてくる気持ちを沈めた。だが、晴貴が寝ている茜を起こしに行っただけで、どうしても気になってしまう。前より許せない自分が出来上がっていたのだ。
 どうしてこんなに動揺してしまうのか。苦しさに頭痛がした。いっそ晴貴を呪いたくなる。頭をかかえて、目を閉じる。
「可奈子………」
 苦しげに、総司はもう一度その名を小さく呟いた。名前を言うだけで、思い出を思い出すだけで、十分だったのに。
 彼女を思い出し、茜の笑顔を追い出す。
―――何を悩んでいる。
 無理に口が笑った。
―――悩むことなど何も無い。
 何かを追い出すように、軽く頭を振った。深く深呼吸する。青い空と青い海を眺めていると、自然に心は落ち着いた。
「すみません」
 ヤダぁー、どうしよかっこいいよー! と黄色い声で囁き合う若い女の人三人組が、岩の下から総司を見上げていた。声をかけてきただろう先頭の女の人は、総司と目が合った途端に頬が赤くなる。
「あ、あの、もしよかったら一緒にお昼でも食べに行きませんか? 美味しい店を知っているんです!」
「ああ、いいね………」
 総司は軽やかに岩から降りると、三人組に優しく微笑みかけた。



 一方、ぼや騒ぎの後のペンションでは、何とか無事だった台所はそのままに、お昼ご飯を注文して食べていた。茜もやっと起きてきて、一緒に食べている。総司は鈴菜の携帯に、外で食べるとのメールが来たのでいない。
 その後は、島を観光して(その時に総司と合流)土産を買い、荷物を整理して帰りのフェリーに乗っていた。
 押しのけられた波が白い泡となり海に波をつくっている。看板に立った茜は、眉根を寄せて、船によって出来るその波を見ていた。隣には、鼻歌を歌う晴貴がいる。他のメンバーは、中で椅子にでも座っているのだろう。
「眉よせちゃってどうしたんや、茜ちゃん。もう酔った?」
 何も話すことなく海へと難しい視線を送る茜に、晴貴が言った。
「どうもこうも、おかしい………」
 茜は、アホ毛を波風に揺らしながら怒った表情で晴貴を見て、叫んだ。
「総司が変! 絶対私を避けてる!」
 一瞬、晴貴の眉毛が上がる。少し考えた後、首を傾げた。
「そうか?」
「うん。他の人には普通なのに、明らかに私にだけ態度が違う………」
 茜は、今度は悲しそうに下を向いた。
「ふーん………ま、大丈夫やろう。気のせいやって!」
 下を向く茜に、明るい声で言う晴貴。口調は軽いが、顔は笑っていなかった。うつむく茜には丁度見えない。
「酔わないように今は休んどきや」
 茜は素直に従って、椿たちの下へと行く。暫くその場に留まっていた晴貴は、茜が去った方向とは反対方向へ行き、壁を曲がる。すると、壁にもたれて腕組みをする総司がいた。
「聞き耳とは、やってくれるなぁ」
「違う、通りかかっただけだ」
 不愉快そうに総司は言う。ふ~んと返事をした晴貴は、自分より背の高い総司を指差し、肩眉を上げた。
「あのなぁ、茜ちゃんが変に思うような態度をいきなりしないでくれ! そんなに気になってしょーがないのか」
「別に」
 目を合わせ、冷静に返事をする総司に晴貴はにまりと笑った。
「本当かぁー?」
「ああ」
 ふーん、と呟いた晴貴は、さらに総司に言い募った。
「茜ちゃんが気にならないんだ?」
「ああ」
「どうでもいいんだな?」
「……ああ」
 一瞬揺らいだ黒い瞳を眺める。ならその一瞬の動揺は何なのだと問いただしたくなるのを抑えた。そこまで否定するのなら、いっそ二度と手を出せないように卑怯な手を使ってしまおうか、と醜い気持ちが湧いてくる。
「じゃぁ……」
 頭のどこかでダメだと否定するが、醜さが勝ってしまう。自分が汚い人間になった気がするが、止まらない。
「じゃぁ……これから俺と茜ちゃんの邪魔を一切しない。変な態度を取らない………そして、茜ちゃんを好きにならない、これ守れるか?」
 総司の前で、目を合わせて晴貴は言った。総司はハハッと笑う。
「守ってやるよ。好きになるなんて絶対ありえないね」
 絶対に。

 総司はいっそ見事なほどに笑顔で答える。晴貴は、奥歯を噛み締め、視線をそらした。

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ララ的一言「晴貴君、複雑な心境です。もともと総司とは腐れ縁。





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